この記事は本書の構成に従い、Elad Gilのブログ記事をもとに、具体的な事例や引用を含む詳細な要約をDeepResearchにレポート形式で作成させたものになります。内容の正確性には保証でき
第1章 CEOの役割
CEOの役割は成長段階によって劇的に変化する。
創業者CEOは、会社のライフサイクルに応じてコーダー、リクルーター、プロダクトマネージャー、営業、広報、ロビイストなど様々な「帽子」を被ることになる (Your #1 Job As CEO - by Elad Gil - Elad Blog)。
スタートアップでは課題を一つ乗り越えるごとに次の課題が現れるため、常にその時点で最も重要なことは何かを自問し、トッププライオリティに時間を投下する必要がある (Your #1 Job As CEO - by Elad Gil - Elad Blog)。
Gilは「毎週立ち止まって、自分が達成しようとしていることと、それを成し遂げるために最も重要な1~2の事柄は何かを考えよ」とアドバイスしています (Your #1 Job As CEO - by Elad Gil - Elad Blog)。
CEOとして日々「今会社のために最も重要な仕事は何か」を意識し、それに集中する習慣が求められます。
常に求められる2大責務は「資金を切らさないこと」と「人材の採用・解雇」です。
「スタートアップ失敗の原因第1位は資金が尽きることだ」という原則を忘れてはならず、CEOは常に資金繰りに目を光らせ十分なランウェイを確保する必要があります。
また、優秀な人材の採用とパフォーマンスの出ない人材の入れ替えも継続的な最重要課題です (Your #1 Job As CEO - by Elad Gil - Elad Blog)。
例えばGoogleのラリー・ペイジは一貫して人材採用に注力したCEOの好例で、同社ではかつて候補者1人につき8回以上の面接を課し、全ての面接官が「ぜひ採用したい」と評価しなければ不採用になるほど徹底した採用基準を設けていました (Your #1 Job As CEO - by Elad Gil - Elad Blog)。
このように最高の人材を集めることに妥協しない姿勢が、会社の成長土台を築きます。
高成長企業のCEOは、戦略立案や文化醸成といった「大きな仕事」だけでなく、自分自身と組織をマネジメントする実務にも注力しなければなりません。
一般的な経営書では「CEOの仕事」は企業戦略の策定・伝達、文化の醸成、人材配置、資本配分など数点に要約されます (The role of the CEO: managing yourself – High Growth Handbook)。
しかし、急成長期のCEOには時間的余裕がなく、強力な経営チームを整えるまでは腰を据えた戦略思考に時間を割くことも難しいのが実情です (The role of the CEO: managing yourself – High Growth Handbook)。
そこでGilは通常あまり語られない「3つの戦術的職務」、すなわち
- 「自分自身のマネジメント」
- 「直属部下(経営陣)のマネジメント」
- 「取締役会のマネジメント」
にフォーカスすべきだと述べています (The role of the CEO: managing yourself – High Growth Handbook)。
まず自分自身を管理すること。
これはバーンアウト(燃え尽き)を防ぎ、会社を率い続けるために最優先です (The role of the CEO: managing yourself – High Growth Handbook)。
会社の規模拡大に伴いCEOへの要求や依頼は非線形に増大します。
チームメンバー、顧客、投資家、メディアなど膨大なステークホルダーから引っ張られる中で、自分の時間にレバレッジをかける術を身につけ、「ノー」と言う勇気を持たねばなりません (The role of the CEO: managing yourself – High Growth Handbook)。
具体的には
- 権限移譲(デリゲーション)を進めること
- 定期的にカレンダーを見直して不要な予定を削減すること
- 何でも自分でやろうとする旧来の仕事習慣を捨てること
- 仕事以外で自分が大切にするもの(家族や健康など)に時間を確保すること
が挙げられます (The role of the CEO: managing yourself – High Growth Handbook)。
権限移譲についてGilは、経験豊富なマネージャーを採用して手本とすることや、試行錯誤で少しずつ任せる範囲を広げていくこと、メンターを見つけ助言を仰ぐことを推奨しています (The role of the CEO: managing yourself – High Growth Handbook) (The role of the CEO: managing yourself – High Growth Handbook)。
自分の手を離れてもうまく回る領域を増やし、逆に自分にしかできないことに集中することで、CEOは会社全体の生産性を引き上げるのです。
次に直属の経営チームを管理すること。
CEOは経営陣各人との1対1の定期ミーティングを行い(理想的には毎週)、進捗や課題を把握しフィードバックを与えるべきです (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
社員数が30人程度を超えたら、毎週経営陣全員が集まるスタッフミーティングを開催することが推奨されています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
この全体会議では主要KPIのレビューに加え、各部門が直面する重要課題や会社全体の戦略について議論します (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
注意すべきは、この会議は単に各自が進捗報告する場ではなく、経営陣同士が情報共有し議論を深めるフォーラムだという点です (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
CEOは全部署の状況を把握していますが、他の経営陣はお互いの領域で何が起きているか見えにくいため、スタッフミーティングを通じて相互理解と連携を促進するのです (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
さらに、会社規模が大きくなるにつれCEOは現場の実情をつかみにくくなるため、スキップレベル面談(部下の部下との面談)も有効です (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
優秀な若手社員から直接アイデアや問題点を聞き出すことで、新鮮な情報を得ると同時に将来のリーダー候補を見極め育成する機会にもなります (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
最後に取締役会(ボード)の管理です。
これについては第2章で詳述されますが、CEOにとって取締役会は会社の方向性を共に議論し支援を取り付けるべき重要な「チーム」です (“Hiring” Your Board of Directors – High Growth Handbook)。
したがって、ボードメンバーとの信頼関係を築き、彼らが会社の戦略を十分理解しサポートできるよう適切に情報提供し議論をリードすることも、CEOの大切な役割となります (“Hiring” Your Board of Directors – High Growth Handbook) (“Hiring” Your Board of Directors – High Growth Handbook)。
第2章 取締役会のマネジメント
取締役会(ボード)は会社にとって「採用すべき人材」と同等に重要な存在です。
Elad Gilは「共同創業者が配偶者に例えられるなら、ボードメンバーは義理の両親のようなものだ。頻繁に顔を合わせるし簡単には関係を断てないが、会社の将来に大きな影響を及ぼす存在だ」と述べています (“Hiring” Your Board of Directors – High Growth Handbook)。
したがってCEOは取締役を選ぶ際にも慎重に臨み、会社にもたらす価値を見極めて「採用」する心構えが必要です (“Hiring” Your Board of Directors – High Growth Handbook)。
優れたボードメンバーは会社戦略に貢献し、シニア人材の採用や資金調達を助け、組織運営やガバナンスにも寄与してくれます (“Hiring” Your Board of Directors – High Growth Handbook)。
特に会社が成長中期に入ると、取締役会はCEOの選定・交代やその評価にも関与するようになるため(最終的には取締役会がCEOを解任する権限を持ちます)、ボードメンバーの良し悪しが会社の命運を左右すると言っても過言ではありません (“Hiring” Your Board of Directors – High Growth Handbook)。
取締役会の構成と進化: スタートアップの取締役会は通常、創業者(普通株株主代表)とVC出資者から各数名ずつで構成されます (“Hiring” Your Board of Directors – High Growth Handbook)。
例えばVCが出資する際には、そのVCのパートナーが取締役に就任することが典型です。
また近年は早い段階で社外の独立取締役を加える例も増えています。
独立取締役は経営に豊富な経験を持つ人物や業界に精通した人物が務め、経営陣でも投資家でもない中立的立場から助言を与えてくれます (“Hiring” Your Board of Directors – High Growth Handbook)。
創業者にとって耳の痛い指摘をしてくれる独立取締役は、長期的には会社に大きな価値をもたらすことがあります。
会社の成長に伴い、取締役会もメンバー数が増え、監査委員会や報酬委員会など専門委員会の設置が必要になるなど構造が変化していきます (“Hiring” Your Board of Directors – High Growth Handbook)。
CEOは各ステージに合ったボードメンバーを招へいし、必要に応じて入れ替えを行うことが求められます。
望ましい取締役の選び方: VCから出資を受ける際は、資金条件だけでなくそのVCパートナー個人が取締役としてふさわしいかを考慮すべきです。
長期にわたり密接に協働する相手であり、信頼できる人格・助言能力を持つかどうかが重要になります。
同様に独立取締役を選ぶ際も、単なる肩書きや知名度より自社の課題に適した知見と時間を割く意欲がある人物かを見極める必要があります (“Hiring” Your Board of Directors – High Growth Handbook)。
加えて、ボードの多様性も意識しましょう。
Gilは「バックグラウンドや性別、人種が多様であっても、目的意識と価値観が一致したチーム」を作ることが企業文化だけでなく取締役会にも大切だと述べています (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
様々な視点を持つ取締役がいることで思考の偏りを防ぎ、広い視野で戦略議論ができるからです。
実際に取締役の候補を探す際には、投資家や顧問のネットワークだけでなく専門エージェントや業界団体なども活用し、多様な人材プールに当たるとよいでしょう(「多様な取締役候補を見つける方法」 (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)参照)。
取締役の交代: やむを得ずボードメンバーを交代させるケースもあります。
例えばVCの担当パートナーが自社にとって好ましくない言動を繰り返す場合、同じVCでも他のパートナーに差し替えてもらう交渉をすることがあります。
また独立取締役が会社の方向性と合わなくなった場合や充分に貢献できていない場合は、任期満了を機に退任してもらうことや、自発的辞任を促すことも選択肢となります。
法律上取締役の解任は手続きが必要ですが、現実にはCEOが粘り強く説得し「円満退任」の形を取るのが一般的です。
取締役の選任・解任はデリケートな問題ですが、会社の最善のために必要であれば躊躇せず動くこともCEOの責務と言えます。
取締役会の運営: 定期的な取締役会ミーティング(通常は四半期ごと、成長企業では月次の場合も)は、経営陣と取締役が戦略課題を議論する重要な場です。
効果的な取締役会運営のポイントとして、事前準備とアジェンダ設計が挙げられます。
CEOやCFOは会議資料(財務報告や主要指標、議題となるトピック)を事前に配布し、取締役が十分目を通せるようにします。
その上で会議では資料の逐次説明に時間を取られすぎず、重要論点の討議にフォーカスすることが望ましいとされています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
Gilは「会議は経営陣にとっての情報共有・戦略議論の場であり、単なるアップデートの場ではない」と強調しています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
各取締役から建設的な提案や懸念を引き出し、有意義な議論につなげるよう議長であるCEOがリードしましょう。
また、「驚き(サプライズ)を避ける」のも鉄則です。
取締役が会議の場で初めて重大な問題を知るような事態は信頼関係を損ねます。
問題が発生した場合や重要な意思決定を行う前には、事前に個別に取締役と相談し意見を聞いておくなど、根回しと透明なコミュニケーションが大切です。
取締役会外での関係構築: 公式な会議以外でも、CEOは取締役と適宜コミュニケーションを取るべきです。
進捗報告のメールを月次で送ったり、重要な発表前に助言を求めたり、1対1でコーヒーミーティングを持ったりと、継続的な情報共有と信頼醸成に努めましょう。
特に経験豊富な取締役からは貴重な助言が得られるため、単に承認をもらう相手と考えるのではなく「相談相手」や「メンター」として積極的に活用する姿勢が望まれます。
これにより取締役会全体が会社の支援者・推進者として機能し、いざというとき(例えば大型の意思決定や危機対応)に結束して動いてもらう下地ができます。
ボード観察者や会議出席者の扱い: スタートアップによっては正式な取締役ではない投資家や顧問が「ボードオブザーバー」として会議に同席することがあります。
また場合によっては経営陣以外の社員がプレゼン目的で参加することもあります。
しかしGilは、取締役会の場に不必要な参加者を増やしすぎないよう注意を促しています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)(「Board observers and random people showing up to board meetings」より)。
発言権のないオブザーバーが多いと率直な議論が妨げられたり、機密保持のリスクも増えるからです。
必要な場合でも、参加者の範囲を明確に定め、議題に直接関係ある人だけに限定することが望ましいでしょう。
第3章 人材の募集、採用、マネジメント
急成長スタートアップでは、人材採用を「科学」として捉え、プロセスを整備・スケールさせる必要があります。
10人/年ペースの採用から週に10人の入社という規模に拡大しても質を落とさずに人材を確保するには、いくつかのベストプラクティスを導入することが有効です (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
Gilは以下のような具体策を挙げています。
- 職種ごとに明確な求人票を作成する:
規模拡大に伴い、エンジニアやデザイナー以外にも多様な職種を採用するようになります。
各ポジションについて「この役割で求めるスキル・経験」と「その人物に担ってもらう業務範囲」を事前に言語化し、面接に関わる全員に共有することが大切です (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
例えば初めてビジネス開発担当を採用する場合、エンジニアなど面接官がその職種をよく理解していない可能性があります。
何を重視して選考するか共通認識を持つために、「この職種では何を重視し、何を重視しないか」を求人票に明記し、それを軸に評価するようにします (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook) (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
- 全候補者に対して一貫した質問を行う:
面接では各候補者に好き勝手な質問をするのではなく、事前に決めた重要項目について全員に同じまたは類似の質問をするようにします (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
これにより各候補者を公平に評価し比較しやすくなります。
評価のブレを防ぐため、質問項目や基準を標準化するのがポイントです。
- 面接官ごとに担当フォーカス領域を割り振る:
複数人が面接に当たる場合、全員が同じ質問を繰り返すのは非効率ですし評価も偏ります。
代わりに「面接官Aはスキル面、Bはカルチャーフィット、Cは過去の実績」等、各面接官に担当領域を割り当てて深掘りしてもらうようにします (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
これにより候補者を様々な角度から評価でき、限られた時間でより深い洞察を得られます。
懸念点が残った場合は二次面接で特定領域を追加検証する、といった柔軟な対応も可能です (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
- 業務課題を用いたインタビュー(課題テスト):
エンジニアのコーディング試験、デザイナーへのデザイン課題、マーケターへの仮想マーケティングプラン作成など、実務に即した課題を与えて成果物や取り組み方を見る方法も有効です (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
特に実績ベースで判断が難しい場合、課題を通じて実力を発揮してもらうことでミスマッチを防げます。
ただし自社の実際の仕事を無償でやらせるような課題は避けるべきです (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)(候補者に「ただ働きさせられた」と思われないよう配慮する)。
- 評価スコアリングと記録の徹底:
各面接官は面接直後に候補者評価を記入・提出し、他の面接官の意見に引きずられないようにします (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
評価は数値スコア(例:1~5点)や明確な判定(「採用」「不採用」)で表し、中間の「あいまい」な選択肢は設けないのがコツです (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
例えば「採用/不採用」の二択にすると意思決定がはっきりし、全員が責任を持って判断を下すようになります (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
一貫したスコアリングにより、合否の集約もスピーディーに行えます。
- 採用プロセスを迅速に進める:
人材獲得競争において選考のスピードは勝敗を分ける重要な要因です。
Gilは「自分が関わったすべての企業で、優秀な人材の『口説き落とし(入社承諾率)』を左右する最大の要因の一つが、どれだけ迅速に面接からオファーまで進めたかだった」と述べています (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
優秀な人材ほど複数社から声がかかっているため、もたもたしている間に他社に取られてしまう可能性が高まります。
候補者には可能な限り早く次のステップに進んでもらい、良いと判断したら素早くオファーを出す姿勢が重要です (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
- リファレンスチェックを欠かさない:
最終段階では前職の上司・同僚などから候補者の評判を確認します。
面接で見抜けなかった長所や短所が判明することも多く、口頭では言いにくいネガティブ情報もリファレンスなら率直に得られる場合があります。
特に経歴に不明点がある場合や重要ポジションの採用では、徹底した身元・実績確認がリスクヘッジになります( (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)の評価プロセスと併せて参照)。
- 多様な候補者プールにアクセスする:
単一の属性に偏らない人材採用も心掛けるべきです。
特に創業初期に社員の大半が似たバックグラウンド(例:同質の学歴・人種・性別)で占められてしまうと、その後の多様性確保が難しくなります。
Gilは「初期段階で優秀な女性を一定割合採用せよ」とも助言しており、多様性は意識的な努力なしには実現しないと指摘しています (Company culture and its evolution – High Growth Handbook) (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
求人内容や採用チャネルも幅広く工夫し、多様な人材が応募しやすい工夫をしましょう。
採用組織のスケーリング: 創業初期にはCEOや幹部自身がリクルーター役を務めるものですが、従業員が数十人を超える頃には専任のリクルーターを雇うことを検討すべきです (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
さらにハイペース採用期には社内にリクルーティングチームを立ち上げ、複数のリクルーターやコーディネーター(面接日程調整などを行う)を配置し、採用フローを回せるようにします (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
特にエンジニア採用が競争激しい場合は、候補者のスカウトやコミュニティとの関係構築に専念する担当者を置くなど、社内の「採用能力」に投資することが将来の成長速度を左右します。また、CXOクラスやVPクラスの採用では信頼できるエグゼクティブサーチファーム(ヘッドハンター)を活用することも効果的です (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
「retain型」のサーチファームは成功報酬ではなく前払いのフィーで動きますが、その分本気度が伝わり難易度の高いポジションでも粘り強く優秀層を探してくれる利点があります (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
新人オンボーディングと人材定着: 採用した人材を戦力化し長く活躍してもらうには、計画的なオンボーディングが必要です (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
具体的には、入社受け入れ体制として
- 歓迎メールの送付 (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)
- バディ制度(先輩社員が世話役となる) (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)
- 歓迎キットの提供(PCや会社グッズ、ドキュメント類をセットにしたもの) (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)
などが有効です。
入社後すぐに明確な目標設定を行い (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)、新入社員が自分の役割と期待値を把握できるようにしましょう。
また新メンバーにも意思決定に参加する権限や裁量を与え、本当の意味で「オーナーシップ」を持ってもらうことが大切です (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
一方、初期からいる古参社員へのケアも欠かせません。
会社が大きくなるにつれ役割が変わり戸惑う初期メンバーもいるため(いわゆる「オールドタイマー症候群」)、適切に役割を再定義したり成長に合わせて新しいポジションを用意することも検討しましょう (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
それでもスキルセットが合わなくなった場合には円満に卒業してもらう選択も必要です (Recruiting, hiring and managing talent – High Growth Handbook)。
早い段階で組織に多様な人材と健全な文化を根付かせ、入社後の育成・定着まで見据えた人材戦略を取ることが、爆速成長を支える土台となります。
第4章 経営チームをつくる
会社の成長フェーズに応じた経営幹部(エグゼクティブ)の採用と育成は、CEOの重要ミッションです。
ある程度の規模までは創業メンバーが主要機能を担えますが、社員数が数十人規模になると各領域を専門家に任せる必要が出てきます。
特に急成長を遂げる企業では、12~18か月先の組織規模を見据えて経営陣を採用せよとGilは助言しています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
つまり現時点で完璧にフィットする人材だけでなく、1年後のより大きな組織でも通用するだけのスキルとスケール感を持った人を選ぶべきということです (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
もっとも、将来を見据えすぎて時期尚早な大企業型人材を入れてしまうと、現状とのミスマッチが生じる恐れもあります。
従って「少し先を行く人材」を狙いつつも、実際に稼働してもらう間は現在の規模に手を汚して適応できる柔軟性を持った人を選ぶことが大切です。
エグゼクティブに求められる資質: 優れた経営幹部に共通する特徴として、Gilは以下を挙げています(「Traits to look for in executives」節より):
- 高い専門知識と経験: 各自の職能領域(営業、マーケ、エンジニアリングなど)で実績を持ち、必要な知識・ネットワークを備えていること。
- スケーラビリティ: 組織が拡大しても自らのマネジメント範囲を広げ、部下を通じて成果を上げられること。小さなチームのマイクロマネジメントしか経験がない人は、大組織のかじ取りには向きません。
- 戦略思考と実行力のバランス: 日々の問題解決やオペレーションを回せる実行力に加え、自部署の将来像や組織設計を描ける戦略眼を持つこと。優秀な幹部は着任早々に自部門のロードマップや組織計画を策定して示してくれるものです (When Executives Break - by Elad Gil - Elad Blog)。
- 文化フィットとリーダーシップ: 会社の核心的価値観を体現し、メンバーを鼓舞できるリーダーシップ。加えてCEOとの相性や信頼関係も重要です。
経営チーム採用の難しさ: 幹部採用は平坦な道ではなく、多くの創業者CEOが「一度や二度は失敗する」のが当たり前とされています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
どれほど慎重に見極めたつもりでも、実際に一緒に働いてみると期待外れだったり会社の成長について来れなかったりする場合があります。
Gil自身「経営陣の採用は必ず何回かは間違えるものだ」と述べており、その失敗自体より問題に気付いた後の対処が肝要だと示唆しています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
具体的には、採用した幹部が目標未達・判断ミスの連発・計画立案の不備などスケールについていけない兆候を見せた場合、できるだけ早期に役割の変更や交代を検討すべきです (When Executives Break - by Elad Gil - Elad Blog) (When Executives Break - by Elad Gil - Elad Blog)。
放置すればその幹部が管掌する機能全体が混乱し、成長の足かせとなりかねません (When Executives Break - by Elad Gil - Elad Blog)。
事実、スタートアップが急成長する局面では、経営陣の力量が成長スピードを左右するブースターにもボトルネックにもなり得ます (When Executives Break - by Elad Gil - Elad Blog)。
せっかく経営幹部を置いたのに、CEO自ら火消しに奔走していたのでは本末転倒です (When Executives Break - by Elad Gil - Elad Blog)。
「経営幹部はCEOの手足を増やすためにいるのであり、逆に手間を増やすようではいけない」 (When Executives Break - by Elad Gil - Elad Blog)という指摘はその通りです。
創業者にとって幹部の交代は辛い決断ですが、組織のためには見切りをつける決断力も求められます。
COOの是非: 急成長企業で議論になる役職にCOO(最高執行責任者)があります。
COOはCEOに次ぐナンバー2として主に内部オペレーションを取り仕切るポジションですが、必ずしも全社に必要なわけではありません。
Gilは「Why a COO?」「Why not a COO?」の中で、COOを置くメリット・デメリットを解説しています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
メリットとしては、CEOが対外的な業務(投資家対応や広報、事業開発など)に専念でき、社内業務はCOOが統括することで経営効率が上がる点が挙げられます。
一方デメリットは、役割分担が不明確だと権限の衝突が起きたり社員が混乱したりする恐れがあることです。
例えばプロダクトや戦略面でもCOOが口を出すのか、採用や評価の最終決定権は誰にあるのかなど、線引きを誤ると却って摩擦を生みます。
COOを採用する場合は、具体的な職務範囲・責任とCEOとの役割分担を明確に定義することが不可欠です (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
また、自社に本当にCOO職が必要かどうかは規模や創業チームのスキルセットによります。
例えば共同創業者が既に内部オペレーションを統括しているならCOO不在でも回りますし、逆にCEOが技術畑出身でオペレーション管理が苦手なら補佐役が必要かもしれません。
要は会社の状況に応じた柔軟な判断が求められるということです。
経営チームの結束: 有能な経営幹部が揃ったら、次は彼らを一枚岩のチームとして機能させることが重要です。
各自が自部門の成果だけでなく会社全体の成功にコミットし、相互に協力できる関係を築きましょう。
そのためにCEOは経営陣との1on1や全体ミーティングを通じてビジョンと情報を共有し、部門間のサイロ化を防ぐよう努めます(第1章で述べたスタッフミーティングの活用など)。
また報酬体系や評価制度も、全社視点で協力するインセンティブを与える設計にすることが望ましいです。
経営チームが健全に機能し始めると、CEOは細部の実務から離れ「経営チームを経営する」ことに注力できるようになります。
これが実現すれば、会社はCEO個人の能力を超えて飛躍的なスケールメリットを享受できるでしょう。
第5章 爆速成長期の組織構造
ハイパーグロース(爆速成長)のフェーズでは、組織構造も固定的なものではなく柔軟に再編を繰り返す必要があります。
Gilは「会社が急成長しているとき、6~12か月ごとにまったく別の会社になるようなものだ」と表現しています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
組織規模が倍々で増えていけば、人の役割分担やコミュニケーション経路、プロセスもその都度見直さざるを得ません。
重要なのは「唯一の正解にこだわらず、当面の現実に即した実用的な構造」を追求することです (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
理論上の最適解を求めても、成長途上ではすぐに状況が変わってしまいます。
むしろ今の陣容でボトルネックを最小化し意思決定を円滑にするにはどう組織するのがマシかというプラグマティックな発想が求められます (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
時には「完璧な人選ではないが現状手が足りないからこの人に兼務してもらおう」といった帯に短したすきに長しの妥協も必要になるでしょう (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
組織構造とは結局のところ「誰が最終決定権を持つか(タイブレークするか)」を定めるものに過ぎず (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)、正解のない中で社内リソースを最適配分するための手段です。
メンバーの能力や人数に合わせて組織図を書き換える柔軟性こそ、成長に沿った組織づくりの鍵と言えます。
組織再編(リオーガニゼーション)のポイント: 爆速成長下では定期的な組織再編(リストラクチャリング)が避けられません (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
例えば従業員が50人を超えたら部門を細分化したりマネージャー層を増やしたり、プロダクトラインが増えれば事業部制に移行したりと、変化に合わせて構造を変える必要があります。
Gilは「How to do a re-org(どう組織再編を行うか)」で、再編時の注意点を述べています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
その中では
- 全社的な大再編だけでなく特定部門内の再編も含め、小さな変化を機敏に行うこと
- 再編の目的(例えば意思決定の迅速化やマネジメント負荷の軽減)を明確に伝えること
- 組織変更に伴う役割の不安に対して丁寧にコミュニケーションすること
等が重要になります (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
社員にとって上司やチームが頻繁に変わるのはストレスですが、そこを適切にマネジメントするのも経営陣の腕の見せ所です。
再編の効果を高めるには、単なる構造変更だけでなく必要な人員の増強や場合によっては人材の配置転換・退職勧奨までセットで検討することが求められます。
「木を植え替えるだけでなく、水や肥料も与え、枯れた枝は落とす」ような総合的アプローチで、組織という生き物を健全に育てていくのです。
文化の維持と進化: 急成長に伴い組織文化も変貌しますが、何でも変えていいわけではなく、核となる価値観は守り抜く必要があります (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
社員数が十倍百倍になれば、コミュニケーションやプロセスが増え、保守的な考えの人も加わり、スタートアップ当初の雰囲気は変わっていきます (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
それ自体は自然なことですが、創業者/CEOは何を残し何を変え何を捨てるかを主体的に選別しなければなりません (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
そしてベテラン社員にも「製品や組織と同じように文化も進化が必要だ」ことを納得してもらう必要があります (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
文化を形作る最大のレバーは「誰を採用し、誰を昇進・称賛し、誰を解雇するか」です (Company culture and its evolution – High Growth Handbook) (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
リーダーが日々示す言動や評価方針によって、社員たちは何がこの会社で重視されるのかを肌で感じ取ります。
カルチャーフィットを妥協しない採用: Gilは「決して妥協するな: カルチャーフィットの採用」という節で、文化に合わない人材を採ってはいけないと強調しています (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
多様な背景の人材を受け入れることは重要ですが、同時に会社の根幹となる価値観やミッションへの共感という軸ではブレない集団を保つべきだと言います (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
文化とは暗黙の行動規範であり、社員が意思決定する際の土台です (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
強固で一貫性のある文化を持つ組織は外部環境のショック(激しい競争、悪評ニュース、プロダクトの失敗など)にも耐性が高く、社員の士気も揺らぎにくい傾向があります (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
例えばPalantir社のエンジニアが国家安全保障に貢献しているという信念の下で寝食を忘れて働いたり、Googleの「Don't be evil(邪悪になるな)」というモットーが社員の行動規範になったりしたのは、強い文化が人々のやる気を引き出した一例です (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
逆に文化を軽視すると深刻なツケが回ります。
場当たり的に「とにかく手が欲しいから」とカルチャーフィットしない人材を採用すると、短期的には穴埋めができても中長期では必ず問題が噴出します (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
Gilは「文化を妥協して採用した創業者で、それを後悔しなかった者を私は一人も知らない」と述べています (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
実際、カルチャーに合わない人を入れた結果、問題行動を起こして解雇せざるを得なくなったり、職場環境が悪化して優秀な社員が辞めたり、チームの信頼関係が崩れたりといった弊害が次々と起こるといいます (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)。
“Every single founder I know who has compromised on culture when hiring has regretted it due to the disruptions it has caused their company.” (Company culture and its evolution – High Growth Handbook)
とある通り、文化を損ねる人材を入れる代償は計り知れません。
ですから採用段階で「この人は成果は出しそうだが社風に馴染まないのでは?」という強い懸念がある場合、たとえ人手不足でも長期的視点でノーと言う勇気が必要です。
強い文化を築くには: 望ましい文化は自然発生するものではなく、リーダーシップによって育まれます。「How to build a strong culture」の節では、まず会社のミッション・バリューを明確化し言語化することが勧められています。
口先だけでなくリーダー自身が日々の行動でそれを示し、社員を評価・報酬する際にも一貫して価値観に即して判断することで、次第に組織に染み渡っていきます。
また初期段階で多様性を確保することも強い文化づくりに寄与します。
例えば最初の10人全員が似たタイプだと、後から異質な人を迎え入れるのが難しくなります。
Gilは「初期に女性社員を一定割合入れるなど、多様性に富んだチームにしなさい」と具体的にアドバイスしています(Kulturenvyブログでの引用 (Workplace Culture Challenge - Kulturenvy: [Re] defining workplace ...))。
多様性は単なるスローガンではなく、社員がお互いの違いを尊重し共通の目的に向かえる環境を意味します。
そのためにはハラスメントのない安全な職場を作り、マイノリティが孤立しないような配慮や制度も重要です(Joelle Emersonとのインタビューにも多くの示唆があるでしょう (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook) (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook))。
強い文化とは排他的なものではなく、多様な人材が同じ旗の下に結束できる包容力のある文化なのです。
ダウンターン(逆風期)でのマネジメント: どんな好調な企業にも景気の波や成長の踊り場は訪れます。
急成長に浮き足立っていると、ひとたび経済環境が悪化した際に大きな痛手を被りかねません。
Gilは「Managing in a downturn」で、不況期への備えとして支出の見直し(延命策)や厳しい意思決定の断行について述べています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
例えば資金調達環境が悪化したらすぐにコスト構造を見直し、必要なら早めのレイオフ(人員削減)も検討する、経営陣は楽観シナリオではなく現実的・悲観的シナリオで計画を立て直す、といった対応が挙げられます。
社員へのコミュニケーションもいつも以上に透明性を持ちつつ、士気が崩れないようビジョンを再確認することが重要です。
逆風期の舵取りは苦しいものですが、的確に乗り切れば競合との差を広げるチャンスにもなります。
つまり「良いときに慢心せず、悪いときに素早く動け」という経営の鉄則が、爆速成長企業にも当てはまるのです。
第6章 マーケティングと広報
高成長企業において、マーケティングと広報(PR)は製品の次に重要な成長ドライバーです。
優れたプロダクトを作っただけではユーザーや顧客は勝手には増えません。
マーケティング戦略を駆使して市場に訴求し、自社のブランドを築き上げることで、成長曲線をさらに急勾配にできます。
Elad Gilはマーケ機能をいくつかに分類して解説しています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook):
- グロースマーケティング(成長マーケ):
データ分析と実験を駆使してユーザー獲得や利用促進を図る領域です。
プロダクトの各ファネル(認知→オンボーディング→継続利用など)を最適化し、広告やバイラル施策、A/Bテストなどでユーザー数拡大を狙います。
例えばFacebookのグロースチームは、メール招待やサインアップフローの最適化、大規模な多変量テストによって数千万規模のユーザー増加を実現しました (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
このようにグロースマーケは製品チームやデータサイエンスと密接に連携し、定量的な指標を伸ばすことに特化します。
- プロダクトマーケティング:
製品の価値を正しく市場に伝え、ユーザーのニーズと製品機能を結び付ける役割です。具体的には製品メッセージの策定、ターゲットセグメントの明確化、営業資料の作成、ユーザーへの啓蒙などを行います。
B2B企業であればプロダクトマーケターがセールス部隊と協働し、顧客の課題に沿った提案ストーリーを作り上げます。
消費者向けでも、ユーザーが「この製品は自分のためのものだ」と理解できるポジショニングを打ち出すことが重要になります (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。プロダクトマーケティングは開発チームとも連携し、市場からのフィードバックを製品ロードマップに反映させる架け橋ともなります。
- ブランドマーケティング:
長期的な観点でブランド価値を高める活動です。
広告キャンペーンやSNS発信、イベントなどを通じて、自社の名前やイメージをターゲット顧客の心に刷り込むことを狙います。
ブランドは差別化要因であり、顧客が類似製品ではなく自社を選ぶ理由にもなります。例えばAppleが「洗練されたデザインと創造性」のブランドイメージを醸成し続けた結果、高価格帯でも熱心なファンを維持しているのは有名です。
スタートアップでも、早期から独自のトーンやストーリーを発信しブランドの輪郭を形作ることが後々効いてきます。
- PR・コミュニケーション(広報):
メディアや世間に対する会社の露出とメッセージ管理を担当します。具体的にはプレスリリース作成、メディアとの関係構築、取材対応、危機管理広報などです (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook) (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
スタートアップの場合、資金調達や新製品ローンチの際にTechCrunch等に記事を掲載してもらうのも広報の役目です。
良い広報戦略は無料の宣伝効果(アーンドメディア)を生み、信用力を高めてくれます。
一方で悪いニュースが出たときの対応も広報の重要任務です。情報開示のタイミングやメッセージの出し方一つで、その後の世論や顧客反応は大きく変わります。
マーケティング組織と人材: 創業初期はプロダクト優先でマーケにリソースを割けないことも多いですが、適切なタイミングで専門人材を採用することが重要です (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
例えばユーザー獲得が肝の消費者向けサービスなら、シリーズA/Bあたりでグロースマーケターを招いたり、エンタープライズ向けなら早めにプロダクトマーケの責任者を入れるなどが考えられます。
Gilはマーケティング部門の構築について、まずは製品に近いマーケ機能(プロダクトマーケやグロース)から充実させ、その後PRやブランドの専門家を増やすのが一般的と述べています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook) (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
また組織構造として、マーケティングと成長(グロース)チームの連携が重要です。
場合によってはグロースチームがプロダクト部門ではなくマーケ部門傘下に入ることもありますし、その逆もあります。
会社ごとに最適解は異なりますが、顧客獲得という共通目標に向けて部門横断で協働できる体制を整えることが必要です。
適切なタイミングでCMO(マーケティング担当役員)やVPマーケティングを招聘することも検討しましょう。
製品がプロダクトマーケットフィットし、スケール段階に入ったら、マーケ全般を統括できるリーダーがいると心強いです。
この人選では、自社が今最も強化すべきマーケ領域に知見があるかを重視するとよいでしょう(例えばブランド認知拡大が課題ならブランドマーケ経験者、ユーザー基盤拡大が最優先ならグロース畑の人など)。
メディア戦略とPRの心得: スタートアップにとってメディア露出は両刃の剣です。
上手く使えば知名度向上・採用有利・資金調達円滑など多くの恩恵がありますが、誇大宣伝になったり失言で評判を落としたりするリスクもあります。
Gilは広報に関するいくつかの基本原則を述べています。
- メディアトレーニングを受ける:
CEOや広報担当役員は、記者対応やインタビューの訓練をプロから受けておくべきです (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
「オフレコ(off the record)」や「背景提供(on background)」といった取材時のルールを正しく理解し (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)、どんな質問にもブレずに会社のメッセージを伝えられるよう準備しておく必要があります。
特にテレビ出演など初めての経験では予想外の突っ込み質問が来ることもあるため、事前に模擬インタビューで練習しておくと安心です。
- 会社のストーリーを磨き続ける:
創業ストーリーやミッション、製品の価値提案など、対外的に語る「会社の物語」を明確にしておきます (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
これは資金調達のピッチだけでなく、採用候補者やユーザーへのメッセージの核にもなります。
会社の成長や方向転換に合わせて、このストーリーもアップデートしていきましょう(例えば製品ラインが増えたらより大きなビジョンに練り直す等)。
一貫性のある力強いメッセージはブランド形成にも寄与します。
- 「発信しない」という選択肢も検討する:
全てのニュースをプレスリリースにする必要はありません。
Gilは「プレスに載ること=成功ではない」と警告しています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook**)。
メディア露出はしばしば自己目的化しがちですが、大事なのは実業上の成功であって報道量ではありません。
PR効果が見込めない発表や、時期尚早な内容(プロダクトが未成熟なのに煽るような宣伝)などは、あえて広報しない判断も賢明です。
注目されたい一心で些細なニュースまで売り込むと、ジャーナリストからの信頼も損ねかねません。**「やるべきPR」と「やらないPR」を見極めるセンスが重要です。
- 記者との関係構築:
普段から業界記者や有力メディアの編集者とは関係を築いておくと良いでしょう。
広報担当者が定期的に情報提供したりカジュアルに会っておくことで、いざ発表の際にスムーズに話を聞いてもらえます。
ただし注意点として、記者にもそれぞれ関心領域や「アジェンダ(意図)」があります (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
全員が好意的とは限りませんし、時にセンセーショナルな切り口を狙う人もいます。
誰に何を任せるか(例えば独占記事をどの記者に与えるか等)戦略的に考え、報道内容のコントロールと各記者との信頼関係をバランスさせることが求められます。
- 事実誤認への対処:
記事で事実誤認があった場合、放置せず速やかに訂正を求めるか追加説明を行います (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
この際感情的に反論するのではなく、冷静かつ丁寧に訂正ポイントとエビデンスを示すことが大切です。
多くの記者は事実ミスを嫌いますから、正せるものは正してもらったほうが互いのためです。
ただし企業側の見解の相違(ポジショニングや評価に関する不満)までいちいち抗議するのは逆効果です。あくまで客観的事実に限定し、訂正か追記という形で対応してもらうよう努めます。
- 危機管理広報:
不祥事や重大事故など企業の存続に関わるクライシスが発生した際は、初動対応が命運を分けます。
Gilは「PR & crisis management」の節で、事実確認が済み次第できるだけ早く情報開示すること、責任を明確にし誠実に謝罪すべき時はすること、再発防止策を提示することなど基本を説いています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
また、危機時にはSNSでの炎上も想定し、一貫したメッセージを社内外に発信することが重要です。
広報担当者と法務チーム、場合によっては外部のPRエージェンシーとも連携し、沈静化に向けた戦略を立て迅速に実行しましょう。
平時から危機シナリオを想定し準備(シミュレーションやステークホルダーへの連絡網整備)しておくと、いざというときに慌てず対応できます。
最後に、Gilはマーケティングへの投資を躊躇しないよう呼びかけています。
「プロダクトが全て」ではなく「プロダクト×マーケティング」の掛け算で初めて市場での成功が得られるという視点です。
特にテクノロジー志向の創業者はマーケティングを軽視しがちですが、適切なメッセージで適切な人にリーチする力は、プロダクトの価値を最大化するために不可欠です。
優れたマーケティングとPR戦略を備えた企業は、高成長を持続させ競合に差をつけることができるのです。
第7章 プロダクトマネジメント
プロダクトマネージャー(PM)は、成長企業において製品開発を推進しビジョンを具現化する重要な役割です。
小規模なスタートアップでは創業者自身が事実上のPMを兼ねますが、組織拡大に伴い専門のPM人材が求められるようになります。
プロダクトマネジメントとは一言で言えば「ユーザー価値を最大化するために、何を作りどう提供するかを決める仕事」です。
エンジニアリング、デザイン、営業、マーケティングなど各部署と協働しつつ、ユーザーの声を代弁し、プロダクトの方向性をリードします。
優れたPMに必要なスキル: Gilは「Characteristics of great product managers」の中で、一流のPMに求められる6つの資質を挙げています (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook) (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
- プロダクト嗜好(テイスト): 顧客の潜在的ニーズを洞察し「これは喜ばれる/必要とされる」という製品アイデアを見抜く直感力 (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。未知の業界から来たPMでも、適切なリサーチとユーザー理解のフレームワークを駆使して顧客インサイトを素早く掴めることが重要です。
- 優先順位付け能力: 要求される機能や改善案に対し、その価値と開発コストを天秤にかけて取捨選択できる力 (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。限られたリソースで何を先に作るべきかを判断し、「80%の出来でも今すぐ出すべきもの」か「完璧を期すべきもの」か見極めるスキルです (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
- 実行力: 製品をリリースし継続改善するまでプロジェクトを推進するリーダーシップ (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。PMはエンジニアやデザイナー、法務、サポート等様々な関係者を巻き込み、期限までに製品を形にしなければなりません。権限がなくても人を動かす説得力や粘り強さが求められます (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
- 戦略眼: 業界の動向を読み、自社プロダクトを有利なポジションに導く思考力 (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。競合の動きにどう先手を打つか、大局的な視野でロードマップを描く力です。Gilは1970年代Intelの大胆な価格戦略を例に、戦略的思考の重要性を説いています (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。当時Intelは規模拡大でコストが下がることを見越し、原価割れの価格で新製品を投入→需要爆発→大幅なコスト低減→競合に差をつけるという賭けに出ました (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。結果、それが自己実現的予言となり市場支配につながったのです。このように戦略的センスを持つPMは、単なる機能改善に留まらずビジネス全体にインパクトを与える施策を提案できます。
- 高いコミュニケーション能力: PMの仕事の大部分は「意思決定の背景やトレードオフ」を様々な利害関係者に伝え合意形成することです (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。技術者にはビジネス的視点を、営業には技術的制約を、それぞれ噛み砕いて説明し、全員が納得できる道筋を示す必要があります。文章力・口頭力ともに上位10%クラスと言われるほど卓越したコミュニケーション能力が理想です (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
- データ指向と指標設定力: 「計測できるものしか改善できない」。PMはエンジニアやデータチームと協力してプロダクトのKPIを定義・追跡します (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。適切な指標を選ぶのは難しく、正しい指標でも時に間違った行動を誘導してしまうこともあります (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。それでもデータに基づいて意思決定する姿勢と、メトリクスから洞察を得る能力は必須です。
PMの種類と適材適所: あらゆるPMが全てのスキルを最高水準で備えるわけではなく、プロダクトの性質によって活躍できるPMのタイプがあります。GilはPMを主に4つのタイプに分類しています (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook) (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
- ビジネスPM: 顧客要求を製品ロードマップに落とし込むのが得意なタイプ (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。特にエンタープライズ向けソフトウェアや、パートナー連携が重要なプロダクトで力を発揮します。営業チームと協調しつつ、顧客の声を集約して製品に反映させます。技術的な素養もあり、エンジニアとも対話しながら価格戦略や顧客セグメントなどビジネスの勘所に優れています (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
- テクニカルPM: 深い技術知識を持ち、インフラやアルゴリズムといった内向きのプロダクト領域を得意とするタイプ (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。元エンジニアのケースも多く、バックエンド寄りの製品(データベース、開発者向けツール等)でも技術面を理解し、適切な判断ができます (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。一方でこのタイプは顧客対面のスキルが限定的な場合もあるため、ビジネススキルとの両立が鍵になります (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
- デザインPM: ユーザー体験を何より重視するタイプ (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。コンシューマー向けアプリなどで活躍し、プロダクトの細部の使い勝手にこだわります。デザイナー出身者がPMに転身する場合もしばしばあります。ただし美しさに固執するあまりビジネス上のトレードオフを見落とす恐れもあるため、デザイン志向のPMには実用性や市場性とのバランス感覚を養ってもらう必要があるとGilは指摘しています (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。デザインPMは社内のデザイン・エンジニアリングとは密に連携しますが、営業やマーケとの接点は比較的少ない傾向があります (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
- グロースPM: データ駆動で製品の利用指標を伸ばすことに特化したタイプ (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。定量分析に長け、時に大胆な施策でユーザー数やエンゲージメントを急拡大させます。例えばFacebookのグロースPMはメール招待機能やサインアップ最適化により爆発的成長を実現しました (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。グロースPMはエンジニア・マーケ・UXチームと密接に協働し、様々な実験を高速に回します (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。場合によってはマーケティング部門に属することもありますが、本質的には製品とデータの交差点にいる存在です。
多くの企業ではこれらのタイプを組み合わせてPMチームを構成し、自社プロダクトに必要なバランスを取っています (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
一人で全タイプをこなせるスーパーPMは稀なので、プロダクトポートフォリオに応じて適材適所の人材配置をすることが重要です。
また一般論として、技術的に高度なバックエンド製品ほどPMの比率は低く、UI中心の製品ほどPMを多く配置する傾向があります (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
実例として、Googleでは検索インフラチームにはPMがほとんどおらず、逆にモバイルチーム(UI/ビジネス要素が強い)にはエンジニア規模に比して多数のPMがいたとのことです (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
自社の状況に照らし、何人のPMをどの分野に配置すべきか考える参考になるでしょう。
PM採用と組織: スタートアップが初めてPMを採用するタイミングは様々ですが、プロダクトマーケットフィットを感じ始めた頃が一つの目安です。
創業者がプロダクトの細部まで見きれなくなったら、専任のPMを迎えてプロダクト開発の指揮を任せることを検討しましょう。
PM採用時には上述のタイプ分けを参考に、自社に今足りないスキルセットを補完できる人材像を描くと良いでしょう。
また採用プロセスではクロスファンクショナルな面接を行い、エンジニア・デザイナー・営業など様々な立場の社員と話してもらうことで、そのPM候補が各所と円滑に協働できるかを見極めます。
さらにGilはリファレンスチェックの重要性を強調しています (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
特に「プロジェクトマネージャー」を名乗る人を安易にPMとして雇わないよう警告しています (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
プロジェクトマネージャー(進行管理役)は予定通り進める能力には長けていますが、製品の優先順位決定や戦略的意思決定を行う訓練がない場合が多く、ソフトウェア企業では往々にして不要なポジションです (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
高機能な開発組織ではエンジニアリングマネージャーやPM自身がプロジェクト管理も兼ねるため、専任の進行役がいなくても回ります (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
したがってタイトルに惑わされず、本当にプロダクトのオーナーシップを取れる人かを見極める必要があります。
会社が大きくなってきたら、APM(アソシエイトPM)やRPM(ローテーションPM)の育成プログラムを導入することも検討できます (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
GoogleやFacebookでは新卒レベルの若手PMを社内で育てるため、2〜3期にわたる部署ローテーションを行う制度があります (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
これによって将来のプロダクトリーダー候補を内部輩出する狙いです。もっとも、Gilは「社員数1000人を超えるまではAPMプログラムは不要」とも述べており (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)、まずはシニアPMがしっかり組織を牽引できる体制を整える方が先決です (Characteristics of great product managers – High Growth Handbook)。
VPプロダクトの役割: 会社の成長に伴いPMチームも肥大化してきたら、製品全体を統括するVP of Productを置く段階です (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
VPプロダクトはCEO直下でプロダクト戦略を練り、PM/デザイン/UX/リサーチなどの組織を束ねます。
優秀なVPプロダクトは経営チームの一員として事業戦略にも深く関与しつつ、各プロダクトチームに権限委譲してスピード感を維持してくれます (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
CEOはビジョンと大枠の優先順位を示し、VPプロダクトに日々の判断を信頼して任せることで、自分はさらに先の課題(次の市場や新規事業など)に注力できます。
Gilも「強力なプロダクト責任者を採用し権限を与える」ことの重要性を説いています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
まとめると、プロダクトマネジメントはスタートアップの成長に伴い創業者から専門家チームへとバトンパスされていく機能です。
各成長段階にふさわしいPM人材を配置し、適切なプロセスとカルチャー(データ重視、ユーザーファーストの精神など)を根付かせることで、製品開発は継続的かつ加速的に進んでいきます。
優れたPMチームと明確なプロダクト戦略を持つ会社は、市場のニーズ変化に機敏に対応し、競争優位を保ち続けることができるのです。
第8章 資金調達と企業評価額
テクノロジー企業の資金調達環境はこの数十年で大きく変化し、スタートアップはかつてない規模のプライベート資金を調達できるようになりました。
1970年代〜90年代には、成長企業は今よりずっと早期に新規株式公開(IPO)していました。
Intelは創業2年、Amazonは3年、Appleは4年で上場を果たしています (Money money money – High Growth Handbook)。
しかし2000年代以降、IPOまでの期間は大幅に長期化し、10年超非上場を維持する企業も珍しくなくなりました (Money money money – High Growth Handbook)。
その結果、上場前に調達するプライベート資金の額も飛躍的に増大しました (Money money money – High Growth Handbook)。
以前は上場企業にしか投資できなかったような大口投資家(例えばミューチュアルファンドや年金基金)も、未上場のユニコーン企業に直接投資するようになっています (Money money money – High Growth Handbook)。
さらに流動性イベント(=株式の現金化)の遅延は、未上場株のセカンダリーマーケットを発達させ、創業者世代の中には「上場に懐疑的」な風潮すら生まれています (Money money money – High Growth Handbook)。
本章では、このような状況下での後期資金調達(レイトステージ・ファイナンス)と企業価値評価に関するポイントが述べられています。
レイトステージの投資家たち: 会社のバリュエーションが上がるにつれ、資金調達の相手先も変わっていきます (Money money money – High Growth Handbook)。
シリーズA専門のベンチャーキャピタル(VC)もありますが、多くの従来VCは成長に伴い後期投資向けのグロースファンドを組成したり投資範囲を拡大したりしています (Money money money – High Growth Handbook)。
SequoiaやAccelなど著名VCも、数億ドル単位の後期投資を行うようになっています (Money money money – High Growth Handbook)。
加えて、後期投資に特化したファンド(例: IVP, Meritech, Insight など)や、新興の巨額ファンド(DST, Tiger Global等)も登場しました (Money money money – High Growth Handbook)。
DSTやTigerは創業者に有利な条件で大型投資を行い、「未上場のまま事実上の上場資金を調達できる(プライベートIPO)」状況を作り出しました (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
また近年ではミューチュアルファンド(例: Fidelity, T. Rowe Price)やヘッジファンド、ソブリンウェルスファンド(政府系ファンド)までもが、有望スタートアップへの直接投資に乗り出しています (Money money money – High Growth Handbook)。
例えばソフトバンクのビジョンファンドはサウジ等の資金を背景に未曾有の大型投資を行い、一社で数十億ドルを投入するケースもあります (Money money money – High Growth Handbook)。
このように後期ラウンドでは出資元の選択肢が広がりますが、それだけ出資条件や投資スタイルの違いも大きくなるため、起業家は慎重に選ぶ必要があります。
投資家選定のポイント: Gilは「How to evaluate late-stage funding sources」の中で、後期投資家を選ぶ際に考慮すべき要因をいくつか挙げています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook) (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
- フォロー資金の余力: 投資家が今後もさらなる追加出資(フォローオン)を行えるか (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。巨大ファンドであれば将来数億ドル規模の増資にも応じられます。逆に小規模ファンドだと次ラウンドで付いて来られず、新たに調達し直す手間が生じるかもしれません。
- 上場後のシグナル効果: T. RoweやFidelityなどの公募投資家系が株主にいると、「長期視点の機関が支援している」という市場からの信頼シグナルになります (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。彼らは将来IPO後も継続保有してくれる可能性が高く、その会社の株価安定に寄与するとの期待を持たれます。ただし一部の公募投資家は未上場株の評価額を月次で公開するという珍しい動きをしており、これが社員の士気や後続調達に悪影響を及ぼす例もあるそうです (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)(株価を毎月動かすことに合理性はないため混乱を招く)。
- 戦略的価値: 投資家によっては特定業界の知見やパートナー紹介、新市場進出支援などスマートマネー的な付加価値を提供してくれる場合があります (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。例えばUberが中国展開の際に現地資本から資金を調達し政府対策の助言を得たケースや、GoogleがYahoo!と提携した際にYahoo!から出資を受けたケースなど、戦略投資により市場で有利なポジションを築いた例があります (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook) (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。こうした業務提携を強化するための出資は、一石二鳥の効果をもたらします。ただし純粋な事業会社からの出資は、将来他社との取引に制限が出るリスクもあるため注意が必要です。
- 条件のシンプルさ: 一部のプライベートエクイティ(PE)ファンドやヘッジファンドは、複雑な条件や優先権を要求することがあります (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。例えば将来IPO価格が一定を下回った際の追加株式発行権(ラチェット条項)や、一定価格以下での売却時に価値を取り戻すクローバック条項などです (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。高いバリュエーションを提示されても、そうした複雑な条項が付くと実質的には割高な負債に近い形になりかねません (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。Gilは「もし可能なら条件はシンプルに保つべきで、それは多少バリュエーションが低くなるトレードオフに見合う価値がある」と述べています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。つまり評価額を極大化することより条項の健全さを優先せよというアドバイスです。
- 取締役会シート: 後期投資家の中には、取締役の席を要求しないケースもあります (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。DST(ロシアの投資会社)などはその先駆けで、巨額出資しながらもボードには入らないスタンスで有名です (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。取締役の人数は増えすぎると経営が煩雑になるため、ボードシートを放棄してくれる投資家は創業者にとって好都合です (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。もっとも、シリーズを重ねればボードメンバーは自然に増えていくので、誰に議決権を与えるかは慎重に検討しましょう。
- セカンダリー対応: セカンダリー取引とは、既存株主(創業者や従業員、初期投資家)が保有株の一部を現金化するものです (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。後期ラウンドでは新規発行(プライマリー)のみならず、並行してセカンダリー売出を実施することが増えています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。投資家によってはセカンダリー購入に前向きなところもあれば、関心がないところもあります。もし創業者や従業員に株式売却ニーズがある場合、そのラウンドで対応可能かどうか(およびそれに伴う規制対応能力)は選定基準となるでしょう (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
以上のような観点から投資家を比較検討し、単に提示された評価額の高さだけでなく総合的なメリットを見ることが大切です (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook) (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
DSTによるレイトステージ投資の革命: ここでGilが言及しているDST(Yuri Milner)の話は興味深い例です (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。DSTは2009年にFacebookに大型出資して以降、以下のような特徴で一世を風靡しました (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
- 未上場株への投資でも優先株ではなく普通株の買取や併用を厭わない(創業者に有利)。
- 取締役会に入らないため、創業者のコントロールを阻害しない。
- 1社に対し累計10億ドル以上投入するなど、当時としては桁違いの額を投資し、企業が未上場のまま巨額調達できる道を開いた (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
これらは当時の常識では革新的で、従来PEファンドが要求していた複雑な優先権や経営関与を排し、創業チームにフレンドリーな資金を提供したのです (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
以後、多くのファンドがDST流を模倣しましたが、同社は世界中の有望企業を渡り歩き常に一歩先を行っています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。この例は、後期資金調達において誰から資金を入れるかで会社の戦略的自由度が変わることを示しています。
主要な条項への理解: 後期ラウンドでも基本的なタームシート項目(リクイデーション・プレフェレンス、取締役会構成など)は初期ラウンドと大きく変わりません。
ただ、金額が巨額になるため優先権の影響度が増します (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。とりわけ重要なのが以下の2点です (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook) (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
- 清算価値の優先分配 (Liquidation Preference): 初期VCは1倍非参加型(投資額同額の優先分配のみ)のクリーンな条項が多いですが、後期では2倍や3倍の参加型優先を要求されるケースもあります (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。例えば評価額の折り合いがつかない場合、PEファンドが「評価額はあなた方の希望に合わせる代わりに、万一低い額で売却になったら我々にまず3倍戻るようにしてほしい」と持ちかけることがあります (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。あるいは「○ヶ月以内にIPOしなければ追加で株式を交付せよ」といったIPOラチェット条項もあります (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。これらは実質的にエクイティ投資をデット投資に近づける効果があり、高評価額に見合わない重荷となり得ます (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。Gilは原則として特殊条項は避けるべきと述べ、特に評価額が事業指標以上に先行している場合や不況時には足元を見られて受け入れざるを得ないこともありますが、可能な限り交渉で回避するよう勧めています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
- 取締役会メンバーシップ: 資金調達のたびにボードシートを追加していくと、気付けば大所帯になり議論がまとまりにくくなります (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。一方で後期投資家の中には財務視点での知見を提供してくれる人もいるため、ボードに新たな視点が加わるメリットも否定できません (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。例えば上場準備に詳しい投資家がいれば、IPOプロセスで的確なアドバイスをくれるでしょう。従ってボードメンバー受け入れは慎重に判断し、入れるなら明確な付加価値をもたらす人物に限定することです。また、どうしても人は増えるので、独立取締役を増やしてバランスを取ることも検討しましょう。
評価額と希薄化の戦略: 爆速成長企業ではしばしば驚くような高評価額が提示されます。これ自体は喜ばしいことですが、Gilは「評価額を最適化しすぎるな」とも警告しています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
極端に高い評価額で調達すると、次のラウンドやIPOでの成長期待が大きすぎてダウンラウンド(評価減資金調達)のリスクが高まります。
結果として創業者や社員が心理的・経済的プレッシャーに晒され、士気が下がることもあります (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
また高評価額を維持するために特殊条項を受け入れると、結局Exit時に普通株主が冷や飯を食わされる可能性もあります (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
従って妥当かつ持続可能な評価額で、信頼できる投資家から調達する方が、長期的には価値最大化につながるという考え方です。
Gilはむしろ、時価総額が約5億ドルを超えるあたりで創業者株や従業員株のセカンダリー売却を許可し、個人資産の一部確定によって心理的安定を図ることを提案しています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
一定額を現金化できれば、創業者も初期社員も目先の金銭欲から解放され、より長期志向で会社を大きくすることに集中できるからです (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
例えば評価額5億ドルに達したら創業者が持株の数%を売却する、従業員にもストックオプションの一部売却機会を与える、といった施策です (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
ただし無制限に許可すると働く意欲が削がれてしまうため、販売できる株数や時期はルールで統制する必要があります (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。こうしたセカンダリー取引のガバナンスについても、本章では触れられています。
株式報酬と409A評価: 企業価値が上がるにつれ、従業員向けストックオプションの行使価格(409A評価額)も上昇し、新規入社者へのインセンティブ設計が難しくなります (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
GilはRSU(譲渡制限付株式)への移行についても述べています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
409A評価額とは別に、一定の査定に基づき株式を付与するRSUは、株価が高止まりしている場合でも従業員に実質価値を与えやすい仕組みです。
FacebookやDropboxなどは上場前にストックオプションからRSUに切り替えています (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
スタートアップでも評価額が急騰した際には、CFOや人事と相談しつつ報酬制度の見直しを検討すべきでしょう。
IPO(新規株式公開)について: 最終的に会社を上場させるか否かは大きな経営判断です。本書ではIPOの利点と欠点も整理されています。
利点としては、大量の資金調達が可能になること、株式の流動性が生まれ社員や初期投資家がリターンを得られること、知名度や信用力が増し事業提携や採用に有利になることなどが挙げられます (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
一方、欠点として四半期ごとの収益報告義務や厳格な法的規制への対応コスト、株価変動による経営判断の短期化リスク、敵対的買収のリスクなどがあります (The role of the CEO: managing your reports – High Growth Handbook)。
市場環境も重要です。
IPOにはウィンドウ(好機)が存在し、株式市場が活況な時期には多くの企業が上場しますが、不況時には窓が閉じ上場延期になることもあります (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
Gilは市場サイクルにも触れ、景気の山谷を見極めて最適なタイミングで上場や大型調達を行うしたたかさが必要だとしています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
上場プロセス自体は煩雑ですが、要点を言えば有能なCFOと法律顧問を擁し、早めに内部統制を整え、優れた証券会社とタッグを組んでロードショーに臨むことです (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
上場準備には1年前後を要するため、周到な計画が欠かせません。
まとめると、現代のスタートアップにとって資金調達と企業価値の管理は戦略の一部です。
適切な投資家から適切な条件で資金を得て、無理のない評価成長を図り、従業員や初期株主のモチベーションも維持しつつ最終的なエグジット(IPOまたはM&A)を迎えることが理想的です。
Elad Gilの指摘する数々のポイントは、その舵取りにおいて起業家が留意すべき実践知と言えるでしょう。
第9章 M&A
成熟してきたスタートアップにとって、他社の買収(M&A)は成長を加速する有力な戦略ツールです。
自社の株価が上がり「株式」という通貨価値が高まると、これを使って他社を買収する選択肢が現実味を帯びてきます (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
多くの初めての創業者はM&Aに不慣れで尻込みしがちですが、上手く活用すれば製品開発や人材確保を一気に前倒しでき、競合に対する戦略的優位を築くことも可能です (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook) (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
Gil自身、Twitter社でM&Aチームを管掌した際に買収の価値と多くのスタートアップが買収先を探して漂流している現実の両方を目の当たりにしたと語っています (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
彼はまたGoogle在籍時にAndroid(後のモバイルOSの主力)や地図サービス企業の買収統合を経験し、FacebookがWhatsApp・Instagramといった大型買収で市場支配力を強化した例も引き合いに出しています (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook) (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
これらは、大企業だけでなく成長期のスタートアップも攻めのM&Aを活用すべきことを示唆しています。
実際、Gilは「多くの企業は初回の買収を行うタイミングが遅すぎる」と指摘し、できれば早い段階からM&Aに着手するマインドセットを持つよう促しています (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
Twitterが検索サービスSummizeを買収したとき、Twitter自身の社員数は15人程度、評価額も1億ドル程度でした (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
これは非常に早期の戦略的買収の例で、結果としてTwitterは検索機能という重要なピースを素早く手に入れました (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
一般に企業価値が10億ドルを超えた辺りからは、経営陣は本格的にM&Aを成長戦略の一つとして検討すべきとされています (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
例えば時価総額10億ドルの会社が1%の自己株式に相当する1,000万ドルでスタートアップを買収し、それによって企業価値を10%以上押し上げられるならROIは十分に合います (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
まして5~10億ドル超の規模になれば、M&Aは事業戦略の中核になり得るとGilは述べています (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
Facebookが10億ドル超でInstagramを買収し、その後何十億ドルもの価値を生み出したのは有名な例ですし、GoogleもAndroid買収によってモバイル時代の覇権を握りました (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook) (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
これらはすべて適切なタイミングでの大胆なM&Aが企業の将来を大きく拓いたケースです。
買収を開始する適切な時期: 「いつから買収に乗り出すべきか?」に絶対的な答えはありませんが、Gilは経営陣と取締役会が協議して決めるべきだと前置きしつつ、いくつかの目安を示しています (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
上記の通りTwitterは小規模のうちから必要に迫られて買収を行いました。
一方、多くの企業は自社プロダクトに注力するあまり、成長初期にはM&Aに手を出しません。
しかし、規模が大きくなるにつれて組織に余裕が出てくると同時に、競争環境も激化します。
そのタイミングで成長を加速したり穴を埋めたりする手段としてM&Aを活用するのです。
Gilは企業価値が10億ドルに達したら真剣にM&Aを検討開始すべきと述べます (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
なぜならその頃には買収に使える株式やキャッシュの余力も増え、たとえば1%の株式を割いても致命傷にはならないからです (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
また、市場評価額が大きいほど大型買収でも相対的負担は小さくなります。逆に早期すぎるM&Aは自社に統合する体力がないと消化不良を起こす可能性もあるため、ある程度の経営基盤が整った段階というのが一つの見極めでしょう。
M&Aの3タイプ: Gilは買収には主に3種類あると解説しています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
- チーム獲得(Team Buy / Acqui-hire): 事業というより人材確保が目的の買収です。スタートアップの製品やサービスそのものには大きな価値を見いだせなくても、チーム(特にエンジニア)のスキルや才能を獲得したい場合に行います。典型的にはプロダクトは統合後すぐ閉鎖し、メンバーを自社プロジェクトに組み込む形になります。評価額は人材数と質に応じて決まり、総額が小さいことが多いです。買収後の課題は人材のリテンションで、通常インセンティブとして自社株を再付与し数年の拘束期間を設けます。
- プロダクト獲得(Product Buy): 相手企業の製品・技術に価値を感じ、それを自社製品ラインに取り込む目的の買収です。自社で一から開発するより買った方が早い、あるいはその会社のユーザーベースを取り込みたい、といったケースです。買収後はその製品を自社ブランドに統合したり、裏でその技術を活用したりします。価格算定は「自社で同じものを作るならどれくらいコスト・時間がかかるか」「その製品が将来生みうる収益」などから逆算されます。
- 戦略的買収(Strategic Buy): 自社の事業戦略上、大きなシナジーやマーケットシェア獲得を見込んで行う大型買収です。競合を買収してシェアを一気に高めたり、新規事業領域に参入するためにその分野のリーダー企業を買ったりするケースが該当します。金額も大型化し、社運を賭けた意思決定となります。統合の方法も、独立ブランドを維持するか完全統合するか様々ですが、**買収後の統合プロセス(PMI)**が成否を分ける点で難易度が高いです。
Gilは各タイプごとに適用場面と留意点を詳述しています(「Team buys」「Product buys」「Strategic buys」節)。
例えばチーム買収はシリコンバレーではよく行われており、大企業が人材獲得目的で小さなスタートアップを引き取ることが頻繁です。
その際は「主要メンバーが全員ちゃんと残って働いてくれるか」を見極めるため、形式上の面接プロセスを踏むこともあります(「M&A interview processes」節)。
プロダクト買収では技術スタックの親和性やロードマップとの適合が大事になり、統合後にその技術を自社で維持発展させられるかを事前に検討します。
戦略的買収は取締役会の承認も必要な大イベントであり、買収によって自社の姿が変わる可能性もあります。
価格も競争入札になることが多く、投資銀行などの助けを借りて企業価値の算定や相乗効果のシナリオ分析を綿密に行います(「How to set a valuation for companies you buy」節では、各タイプの買収における評価基準が議論されています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook))。
M&Aのロードマップとプロセス: GilはM&Aを成功させるには計画とプロセスが重要だと説きます(「M&A road map」節)。
一般的なM&Aプロセスは
- ターゲットのリストアップ
- アプローチと関心表明
- 事業デューデリジェンス・財務DD
- 企業価値評価と提案
- 条件交渉(LoI=基本合意書)
- 最終契約とクロージング
という流れです。
この過程で、買い手企業内ではCEO・CorpDevチーム・関連部門幹部・法務・財務チームなどが連携し、慎重かつ素早く意思決定していく必要があります。
特に内部ステークホルダーのマネジメントが大切で、経営チームや取締役会が買収戦略に納得していないと途中で足並みが乱れます (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
Gilは「Managing internal stakeholders(社内関係者の管理)」で、重要な取締役には事前に買収の狙いを共有し支持を得ておくこと、社内リークを防ぐためプロジェクトチームを最小限にすること、などを助言しています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook) (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
反対意見への対処: 買収を進める中で、しばしば社内外の反対や懸念に直面します(「Dealing with objections」節)。
社内では「買収資金を自社プロダクトに回すべきでは」「文化が違いすぎて統合が難しいのでは」といった声が上がるかもしれません。
こうした意見にはデータと論理で回答しつつ、感情面のケアも必要です。外部では、買収対象の株主や創業者が消極的な場合もあります。
特に戦略的買収では、対象企業側も独立路線を模索していたり更なる成長を信じていたりするため、簡単には首を縦に振りません。
売り手をその気にさせる: Gilは「Convincing someone (and their major investors) to sell(売却を納得させる)」で、買収提案を受け入れてもらうためのポイントを述べています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
小規模スタートアップ(主にチーム買収や小さなプロダクト買収)の場合、創業者は会社継続が難しくなっていたり出口を模索していたりするので、キャリアや技術の新たな活躍の場を提供できることを強調すると良いでしょう (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook) (M&A: Buying other companies – High Growth Handbook)。
一方、戦略的買収の場合、対象会社の投資家に対しては十分な経済的リターンを示す必要があります。
彼らが将来期待しているであろうIPO時価総額や他社からの提示額を上回るオファーが求められるでしょう。
また創業者に対しては、ビジョンの継続性や自社傘下に入るメリット(リソース・スケール・安心感)を説きます。例えばGoogleがYouTubeを買収した際は、法的リスクをGoogleが引き受け大規模投資で成長を後押しできることが、YouTube創業者にとって魅力でした。
買収提案は金額だけでなく、「一緒に世界を変えよう」というストーリーを伴わせることも重要です。加えて主要投資家とは直接対話し、彼らの期待値や制約(例えばファンドの存続期限など)を理解してオファーを調整することも有効でしょう。
契約交渉: 売り手をその気にさせたら、次は条件面の詳細交渉です(「Negotiate the acquisition」節)。
ここでは価格だけでなく株式対現金の比率、アーンアウト条件(業績連動報酬)、主要人材の拘束条件、知的財産や保証の取り扱いなど、多岐にわたる項目を詰めます。
Gilは交渉において、弁護士任せにせず経営者自ら主要論点を握ることを勧めています。最終契約(Definitive Agreement)は法務用語で埋め尽くされますが、その中身が将来の統合のしやすさやリスク分担を決めるからです。
たとえば表明保証違反に対する補償額の上限や、主要従業員の退職時ペナルティなどは、後で揉めないよう明確にしておく必要があります。
買収後の統合: 契約締結しクロージングした後も、PMI(買収後の統合)が残っています。ここをおろそかにすると、せっかく買収した資産を活かせず終わるリスクがあります。
Gilは「買収は成約がゴールではなく、統合が始まりだ」と強調しています(「Negotiate the sale: strategic asset」などの言及)。
具体的には、買収チームを受け入れる部署の準備、システムやオフィスの統合作業、文化の融合など、細かなマネジメントが必要です。
特に人が最大の資産である買収では、初日から歓迎ムードを作り、新しい同僚たちに会社のビジョンを共有してもらう努力が大切です。
第5章で述べたオンボーディングの概念は、M&Aにも当てはまります。
Elad Gilの最後のインタビュー「Hemant Tanejaとの対談」では、投資家視点から見たM&Aや成長戦略について語られています (How to evaluate late-stage funding sources – High Growth Handbook)。
そこで触れられているのは、おそらく市場の変化に応じた素早い意思決定や長期視野に立った事業ポートフォリオ作りなどでしょう。
成長企業ほど守りに入らず、時にリスクを取ってでも大きなチャンスを掴みにいく姿勢が重要だというメッセージで締めくくられているものと思われます。
総じて、本章のM&Aパートは、スタートアップが「買われる側」から「買う側」へと立場を変える際の指南になっています。
適切なタイミングで適切な対象を買収し、それを自社の成長エンジンに組み込めれば、会社は単独成長の限界を超えて飛躍できます。
Gil自身の経験や数々の事例が示す通り、M&Aは難易度も高い反面、成功すればリターンも大きい経営戦略の一つなのです。